全国図書館大会
第22分科会概要報告

第22分科会「新しいステップへ:公共図書館におけるビジネス支援サービス」報告
(13:30~16:30)出席者106名
会場:国立オリンピック記念青少年総合センター 310号室

① 基調講演「図書館のミッションとビジネス支援」 慶應義塾大学大学院教授 片山 善博氏

  • 現代は自立の時代。図書館は一人一人の自立支援をし、サポートを受けた個人が自分の道を切り開く、いわば図書館は自立の基礎となる施設。
  • なぜ図書館が突然ビジネス支援を言い出したのか、これが新しい図書館の役割というのかを不思議に思われているが、それは図書館のミッションについて利用者である市民が理解していないため。
  • 大学図書館、学校図書館、地方議会図書室などそれぞれに利用者への知的サポートという役割がある。学生や子供の他に教員、議員へのサポートは一人一人の仕事の支援、つまりビジネス支援である。質の高い仕事をするための知的サポート。
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  • 地方分権の時代、自治体にとっても自前の知的サポート機関は不可欠であり、鳥取県知事在職中に県庁内図書室を設置した。実例として知事へのビジネス支援もあった。
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  • 市民一人一人の状況に応じたサポートをするのが図書館。地域の図書館では起業する人、サラリーマンへのサポートの他、たとえば農業従事者に対しては農協で行っていない知的サポート(市場状況を見た経営、生産など)が必要。
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  • 万人が自立するための知的サポートは仕事ばかりではなく生涯学習にも必要。病気の人が闘病記を読んで生きる意欲を得るなど、万人を支援するもの。
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  • 指定管理者制度が広まっているのは、図書館は暇な人の場所という見方のため。生涯学習は図書館のミッションの一部分であり、全体的に見るとあくまで自立支援である。
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  • ・図書館のサービスの進展によって、国民もやがて図書館のミッションを共有するようになる。

② 事例発表

  • ②-1「国立国会図書館におけるビジネス支援への取り組み」        国立国会図書館主題情報部科学技術・経済課 課長 加藤 浩氏  従来より科学技術・経済情報室で行われてきた来館利用者へのビジネス支援サービス、テーマ別調べ方案内などのウェブ上での情報提供についての紹介があった。  今後の方向性として公共図書館が行うビジネス支援サービスに対するバックアップが挙げられた。
  • ②-2「都立中央図書館におけるビジネス情報サービス」    東京都立中央図書館 増田 加奈子氏  ビジネス支援図書館としてのこれまでの取り組みを紹介した後、レファレンス・サービスを中心とした都立中央図書館の情報提供体制や、研修の実施など区市町村図書館への支援体制についての報告があった。
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  • ②-3「大阪府立中之島図書館のビジネス支援について」        大阪府立中之島図書館 ビジネス支援課 藤井 兼芳氏    2004年に組織を改編して開始したビジネス支援サービスについて、資料整備、パンフレット等のツール作成、府立中央図書館との連携体制などを中心に紹介。今後、ビジネス支援サービス利用者の要求も高度化すると予想しているとのこと。
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  • ②-4「情報インターフェースとしての公共図書館」     新宿区立角筈図書館 滑川 貴之氏    小規模図書館において従来の予算、人員配置の中で工夫して行っているビジネス支援サービスとして、起業創業コーナーの設置、パスファインダー、目的別案内図といったツールの作成などの紹介があった。

③ パネルディスカッション

パネリスト    
電気通信大学産学等連携推進本部 客員教授 竹内 利明氏
鳥取県立図書館 支援協力課長       小林 隆志氏
静岡市立中央図書館 主幹兼御幸町図書館長 豊田 高広氏
コーディネーター 
秋田県立図書館 副主幹          山崎 博樹氏

○ビジネス支援サービスが各地の公共図書館に広がり定着しつつある理由、また現状についてどのように分析するか?

(小林)図書館が置かれている厳しい状況を打開するためのサービスと捉えている。趣味・娯楽での利用が中心では予算は削られてしまう。図書館が できることを知らせるためにビジネス・健康支援サービスを開始した。県立がビジネス支援サービスを行うのは、市町村図書館を支援し、一緒にやっていくため である。

(豊田)ビジネス支援は、公共図書館がこれまで持っていた資産を再評価するもの。広く薄く資料を収集していること、公共機関としての敷居の低さ など、既存の財産の視点を変えて利用できるサービスである。役所の関係部署と連携する“コバンザメ戦法”で利用者も回ってくるし、予算も取りやすい。

(竹内)公共図書館にビジネス支援が浸透したのには3つの理由があると考える。第一にキャッチアップ経済からフロントランナー経済へという社会 構造の変化、第二に図書館の従来の体制にひずみが生じていたこと、第三にビジネス支援図書館推進協議会の存在。協議会では図書館以外の機関と連携し、研修 の開催、中小企業庁や業界団体の刊行資料の手配など、会員がビジネス支援を進めるためのサービスを提供してきた。

○今後の課題等について

(小林)ビジネス支援に取り組む職員を育てること。そのために、常に話し合いと情報交換をして、足を引っ張る人間を作らないこと、予算が無い、 人がいないなど「できない理由」を作らないこと、資料を補う情報源として関係部署や他機関の人間とのネットワークを作っておくことが必要。

(豊田)他機関との連携はgive & takeである。図書館側もgiveできるものは用意しておかなければならない。現在は併設の静岡市産学交流センターとの連携はあるが、将来的にはどうな るかわからない。リスクマネジメントから言っても他にも連携を広げたいと考えている。先日も医療訴訟に関するレファレンスの事例から、ビジネス・法律・医 療の関連に気づいた。

(竹内)国内の公共図書館に出かけて館長と話す機会があるが、地方は壊れていない、変化の中にあるだけだと感じている。図書館員、公務員はリスクを恐れて新しいことをしない人間が多い。評論家は必要無い。批判ばかりでは状況は変わらない。

(山崎)共通は人の意識改革ということだと感じる。

○会場との質疑応答

(中野の図書館を考える会・鈴木)自分自身20年前に起業した人間だが、ビジネス支援サービスには反対している。アメリカの図書館サービスがい びつな形で腹黒い研究者により日本に入ってきているように思う。片山氏の講演を聴いて、資料提供の一つとしては支持するが、今はビジネスのみを向きすぎて いる。図書館は読みたいものを借りる場であって欲しい。

(山崎)質問への回答という意味も含めて、これからのビジネス支援のあり方を述べて欲しい。

(小林)ビジネス支援という言葉が無くなることが理想。誰もが生活に必要な情報を入手する場になって欲しい。それが図書館本来のあり方。これからは図書館に来ない人へのPRをしていきたい。

(豊田)市町村図書館においては「ビジネスに特化」ではなく、従来の文学と児童に特化した図書館を是正するものと考えている。小さな図書館は大病院ではなく「情報の町医者」である。図書館は何でもやる所ではなく、名脇役として情報コンサルティングの手伝いをする所。

(竹内)税金を負担する世代へのサービスを充実させたいというのが目標。創業のみに絞ったビジネス支援は無いはずだが目立つのだろう。図書館は 住民が多様な情報を自己責任で判断するのを手伝う。住民が幸福になることが自治体の役割だとすれば、図書館の役割もそうであるべき。

(山崎)図書館の持つ力を周囲の力を借りながら上げていかなければならない。ビジネス支援の概念は広いもので、図書館の数だけサービスの形があるということ。